塩ビとアクリルは、どちらも身近な場所で幅広く使用されているプラスチックです。しかし、その違いをご存じでしょうか。それぞれの特性や用途、強度や透明度、加工性などに違いがあるため、適切な使用法を知っておくと安心です。この記事では、塩ビとアクリルの特徴を詳しく解説します。
塩ビ板とは何か
正式名称はポリ塩化ビニル樹脂といい、一般的には塩ビ、PVCと呼ばれることも多いです。熱可塑性プラスチックの一種であり、耐薬品性、難燃性、耐久性にすぐれ、比較的安価な特徴をもっています。
原料
石油から得たエチレンと、塩素を反応させて得られるポリ塩化ビニルの単量体を付加重合することで塩ビになります。一般的に樹脂は石油を主原料としていますが、ポリ塩化ビニルはエチレンと苛性ソーダの生産過程で作られる塩素を使用するのが特徴です。
苛性ソーダを作る際に食塩水を電気分解し、その際に発生する塩素がポリ塩化ビニルの製造に利用されるため、ポリ塩化ビニルは食塩と石油から作られるともいわれています。
長所
塩ビの特徴としてまず挙げられるのはその強度です。塩ビは耐久性にすぐれており、空気中の酸素による酸化反応を起こしにくく、長期間使用しても性能が劣化しにくい点に強みがあります。
難燃性にも秀でており、引火温度は391℃、着火温度は455℃と紙や木材、ポリエチレンに比べて着火しにくく、非常に難燃性が高い素材です。この特性により、塩ビ板は建築材料など防火対策が求められる用途に広く利用されています。
また、電気絶縁性が高いことも特筆すべきポイントです。耐アーク性は60~800秒とされ、高い電気絶縁性能があります。塩化ビニルよりも高い絶縁性を持つ素材も存在しますが、塩ビは難燃性も高いため、電線の被膜として広く利用されています。
さらに、塩ビは耐薬品性にもすぐれる素材です。酸やアルカリをはじめ、ほとんどの無機薬品に対して高い耐性があるため、化学工場や実験施設など化学薬品に接触する可能性が高い環境での使用にも適しています。
加えて、加工性も塩ビの大きなメリットのひとつです。カレンダー成型や熱成型、ディッピング加工、射出成形、切削加工など、多様な加工方法が可能です。そのため、用途に応じた形状やサイズに加工しやすく、使いやすい素材といえるでしょう。
短所
熱を加えることにより変形する樹脂であるため、高温になるにつれ変形しやすく、低温では脆くなる性質がデメリットです。また、有機溶剤に対しては弱く、これらに塩ビ素材のものが接触することは避けなければなりません。
塩ビ板とアクリル板の違うところ
プラスチック素材の中で、塩ビとアクリルはどちらもよく使われる代表的な材料です。ここでは、塩ビとアクリルの特徴をいくつかの観点から比較します。
強度
塩ビ板とアクリル板の強度を比較すると、塩ビの方が強度は強いです。アクリルのアイゾット衝撃値は約2J/mであるのに対して、塩ビは2.2~109J/mと高いです。このため、塩ビ板は建築資材や農業・工業用資材、医療用器材など、幅広い用途に使用されています。
アクリル板もある程度強度はありますが、とくに高強度が求められる場面では塩ビ板を使用するのがよいでしょう。塩ビはその強度から、建材・設備として利用されることも多い素材です。
重さ
塩ビ板とアクリル板を比重で見ると、塩ビ板は1.4、アクリル板は1.19であり、塩ビ板の方が重いです。プラスチック素材の中でも塩ビ板は比較的重めの素材であり、その重さを活かして安定感が求められる用途に適しています。
一方、軽量なアクリル板は、運搬や取り扱いが容易なので、展示用ケースや透明なカバーなどに使われることが多い素材です。
加工性
塩ビ板は、加工がしやすい素材として知られています。切削加工や溶接、接着、曲げ加工など、幅広い加工方法が可能であり、多くの業種で利用されています。一方、アクリル板も多様な加工方法が可能ですが、塩ビ板に比べると若干割れやすいため、加工の際には注意が必要です。
透明度
透明度に関しては、アクリル板が塩ビ板よりもすぐれています。アクリル板の光線透過率は約94%であり、一般のガラスよりも高く、その特徴から有機ガラスとも呼ばれるほどです。
塩ビ板も透明な樹脂ですが、アクリル板と比較すると透明度はやや劣ります。このため、アクリル板は展示用ケースや照明カバーなど、透明度が求められる用途に適しています。
価格
価格面では、塩ビ板がアクリル板よりも安価です。塩ビ板は他の多くの素材と比較しても低価格であり、加工のしやすさもあり、大量生産が必要な場面で広く利用されています。アクリル板は、その高い透明度の特性から、見た目のうつくしさが求められる用途に適しています。
塩ビ板を使用する際の注意点
塩ビ板は、その特性から多岐にわたる用途で利用されていますが、使用する際にはいくつかの注意点があります。
美観に劣る
塩ビ板は、アクリル板と比較すると強度や加工性にすぐれ、価格が安い点も魅力です。しかし、透明度についてはアクリル板よりやや劣ります。このため、ショーケースや照明ケースへの使用など、美観や透光性を求められる場合には向きません。このような場面ではアクリルを使用するとよいでしょう。
有機溶剤と熱に注意
塩ビは有機溶剤に対しては弱く、特定の溶剤と接触すると劣化する恐れがあります。また、強度は高いものの耐熱温度が低いため、高温かつ強度が求められる場所での使用には向いていません。
まとめ
塩ビとアクリルはそれぞれ異なる特性をもち、用途に応じて使い分けが重要です。塩ビは耐薬品性や難燃性にすぐれ、建材や工業用資材として重宝されます。加工のしやすさやコスト面でも秀でており、大量生産に適した素材です。一方、アクリルは、高い透明度が特徴で、ディスプレイなど、見た目が重要な用途に向いています。使用する環境や求められる特性に応じて、適切な素材を選んでください。